”明日の2コマ目の授業は「病院の使い方」です。主な症状別の診療所のリストも配ります” ……  こんな授業風景は想像できますか。

超高齢社会の只中にあって、医療・介護制度をはじめとする様々な社会システムは、「地域」をキーワードに、大きな転換期を迎えています。“会社・職場から「地域」へ”、“「地域」包括ケアシステム”、“「地域」・街づくり”など、もう何度も目や耳にする機会があったはずです。 しかし、現状は・・・どうでしょうか。(消費)税と社会保障の一体改革の盛り上がりもすっかり落ち着いてしまった中で、一部の人たちが頭で考えた理想の地域像を前提に社会システムが率先して縮小・後退し、当事者である“これからの”高齢者が望む・望まないにかかわらず、その「地域」へと送り出されようとしているといった感が否めません。とすれば、これからは行き先となる地域づくりも然ることながら、そこへの“行き方”、言い換えれば、地域との関係を無理なく作る“きっかけ”の提供が必要ではないでしょうか。 その一つの方法として「おとな学校」構想を提案したいと思います。

大雑把に整理すると、①満60歳(還暦)を区切りとして、そこから6年後の66歳となる4月1日から、「おとな学校」(住所地の公立小学校校舎をタイムシェアする2年間の通学義務教育課程)に入学し、②授業では、地域の基本情報の他、社会保険(年金、医療、介護)やマイナンバー等の行政サービスに関する情報提供、また、体育科授業を通じた健康増進・予防活動や家庭科授業を通じた独居の生活力アップ等も行う、というものです。(おとな学校の基本構想はPDF図表を参照してください) 皆さんの記憶にある公立小学校のときのように、それまでの人生歴や今の生活・経済状況に関係なく、たまたま同じ地域に居合わせたクラスメートとの出会いと交流によって、同世代の“これからの”高齢者自身が、地域を共有する仲間を自然体で作る“きっかけ”を得られる(はず)というものです。そして同時に、学校を運営する市町村(≒地域)の側は、これからの高齢者に伝えるべきこと・ものを、“毎週の授業として”(順を追って、継続的に)きちんと伝えることができる場を確保することができるのです。

もっとも、この構想の検討はまだまだ詰めなければならないことが多く待ち受けます。それは、「カリキュラムや授業時間は?」、「先生は誰?」といった前向きな楽しいものだけではありません。構想の骨格となる、通学を原則とする義務教育化(通常の義務教育は保護者の義務ですが、この構想では市区町村長の義務と位置付けます)、市区町村直営化、などを根拠付けるため、「教育基本法や憲法等における制度の法的整理をどう考えるか」、「どこが運営し、その財源をどう調達するか」、「教職人材をどう確保するのか」、といった多くのシビアな課題が待ち受けます。そして、最大の難関は「社会的なコンセンサスをいかに図るか」でしょう。既存のカルチャースクールや○○教室とは一線を画し、一定の強制力をもって導入する社会システムとして、これらの十分かつ緻密な検討は必須です。 様々な意見があると思いますが、ここでポイントになるのは、「今の社会システム・社会インフラでこの構想が実現できるか」ではありません。“地域で”、“地域へ”と送り出すだけでなく、様々な困難も待ち構えている高齢者1年生の仲間づくりの“きっかけ”を提供するために、「今の社会システム・社会インフラをどう変えていけばいいのか」です。

高齢者へのメッセージを、さまざまな部署が、それぞれ知恵を絞って、ばらばらに行っている現状は、伝えたい側にとっても、知りたい側にとっても不便なものです。「おとな学校」は、高齢者、地域、民間に委ねるのではなく、何より市区町村が自らの困難を解決する手段として本気で検討することが必要と思います。まずは、他の市区町村に先んじて特区での試行は如何でしょうか。

PDF:ham column #5