外部からの不正アクセスとその後の不十分な対応によって、日本年金機構から年金保険加入者(もちろん、受給者だけでなく保険料支払者も)125万件の個人情報が流出した、との報道がありました。どのような条件の加入者の、どのような情報が、どの程度、流出してしまったのか、正確なところは、今後の内外の調査・公表を待つことになります。今回の情報漏えいの問題は、まずは、直接的な被害が発生しないように適切に対応されなければならないのはもちろんのこと、併せて、「外部からの悪意ある攻撃」との弁明では済まされない想定内の事態ついて、きちんと原因究明と再発防止の検討が行われなければなりません。
年金保険制度については門外漢の私があまり不用意なことは書けませんので、本件の是非についてはここまでとします。(最近よく耳にする、“●●と思われる▲▲は、■■と言われています”のような書き方では何が何だか伝わりませんので)

さて、今回の件で、「個人番号制度(マイナンバー)」の議論が少なからず影響を受けることに間違いはないでしょう。名前、加入者番号、生年月日にとどまらず、医療・年金・介護の加入や給付の状況、預貯金や借入金、納税、住民登録など、様々な情報が12ケタの番号で個人ごとに管理される(されていく)ものです。当初は、「社会保障と税」、「災害対策」のみに利用、とされていますが、今後、順次の法整備を経て、預貯金に付番、検診情報に付番と管理範囲を拡大し、あらゆる生活情報が結び付けられる可能性をもつ仕組みです。『マイナンバーを示さないと買えなくなったPCで閲覧したサイト、購入した物、メールを送った相手、に辿り着いてしまう個人番号が、漏えいするかもしれないどこかで管理されている』、こんな日常を考えるとちょっと怖いですね(もちろん、急にこんなことにはなりませんが)。

着目したいのは広報戦略です。リスク先行の情報によって否定的な世論が形成されないために、必要以上のメリットを打ち出す現在の広報・説明には危うさを感じます。個人番号制度の関係機関が提供している資料には、人材不足状態のある自治体を例に挙げ、“マイナンバーの利活用によってオンラインの就職活動が充実し、住民登録や引越手続きもスムーズに”、とあります。でも、求職者が集まらないのは、就職活動の手続きが煩雑だからなのでしょうか。無理やりの具体的“便利”の提示には逆に違和感を覚えます。

たとえ、「(番号管理はされますが)皆さんにとって、こんなに便利です」という説明で押し切ったとしても、今回の125万人が直面するリスクが繰り返されるだけでしょう。むしろ、はっきりと「無駄を省きます」、「不正は許しません」という管理・活用する側の“便利”と、その便利から得られる全体のメリットを示した上で、一般市民に理解を求める(国会に判断を委ねる)という謙虚な姿勢が望ましいのではと考えます。今回、良くも悪くも情報漏えいのリスクそのものは十分伝わったでしょうから、そこからの対応がどう行われるのか、多くの眼に応える必要があります。

PDF: ham column #3